気になるタグ
文/斉藤勝司
森林の除染は進まず、林業は再開されていない
2011年に起こった東北地方太平洋沖地震では、巨大な津波が東北地方の太平洋側の広い地域に押し寄せました。津波の影響で電力を失った福島第一原発からは大量の放射性物質が放出され、周辺地域を汚染してしまいました。
その後、人が暮らす市街地では放射性物質を取り除く除染が進められ、一部の森林でも除染は行われているものの、大部分の森林は手付かずのままで、未だ林業生産は行われていません。森林の除染も求められていますが、過去の研究から森林に降った放射性セシウム(137Cs)は土に強く吸着。深さ10~20cm程度の表層に長期間とどまると言われています。
ただし、一部は樹木に吸収される一方で、雨水に流されるなどして、地下のより深いところに移ると考えられており、筑波大学の研究グループは2011年から13年間に渡り、原発から北西に35km離れた福島県川俣町山木屋地区のスギ林で放射性セシウムを調査しました。

ここまで公開
放射性セシウムがより深いところへ移っていった
スクレーパープレートと呼ばれる道具を用いて表面から5mm間隔で土を採取。各層に含まれる放射性セシウムの量を測定しました(上写真)。その結果、事故以降、落ち葉が積もった層(リター層)と、その下の土の層では放射性セシウムの量が増え続けました。その理由については、事故による放出された放射性セシウムが、一旦、スギの葉や枝に付着するも、雨水に流されるなどして、落ち葉や土中で増えていったのだと考えられています。
ところが、当初、表層のリター層に多かった放射性セシウムは徐々にその下の層に移行。2020年ごろにはさらに深いところへの移行が目立つようになりました。一方、スギが土から栄養を吸収する、直径0.5mm以下の細根に含まれる放射性セシウムを測定したところ、2017年以降、減り続けていることが明らかになりました(下図)。
福島第一原発事故のように自然界に放出された放射性セシウムは、土に吸着され、同じ場所に長くとどまるように思えますが、雨水などによってわずか数cmで地中のより深くに移行することにより、スギが吸収する放射性セシウムを減らすことができます。さらに土には放射性セシウムが出す放射線をさえぎる効果もあるため、私たち人間や生き物への放射線の悪影響を減らすことができます。
そのため筑波大学の研究により、福島の森林でも自然な働きによって放射性物質が取り除かれる除染効果(自浄作用)があることが示されたわけで、この研究成果を参考に効果的な除染が行われ、近い将来、林業が再開されることが期待されています。

文
