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文/白鳥 敬
災害時に通信手段が途絶えても遠隔手術できる?
遠隔手術とは、インターネットなどを利用して、病院から遠く離れた場所にいる患者さんの手術をすることです。医師が少ない地方や、地震や津波などの大規模災害時に役立つと期待されていますが、一つ大きな問題がありました。いつもならインターネットや5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを使えばいいのですが、災害でこれらの地上通信網が使えなくなると、遠隔手術ができなくなってしまうのです。
そこで注目されているのが、人工衛星を利用して通信する方法です。これなら災害の影響は受けないのですが、通常の通信衛星は約3万6000キロメートルの静止軌道上にあるため、通信するとき電波が往復する時間が長く、遅れが生じてしまいます。たとえ一秒に満たない短時間の遅れでも、ロボットの動きがのろくなると、患者さんの命に関わる重大事態になるかもしれません。
低軌道衛星に注目
そこで、八尾徳洲会総合病院(大阪府八尾市)、大阪大学医学部、手術ロボット「Saroaサージカルシステム」を開発したリバーフィールド株式会社の研究チームらは、低軌道衛星に注目。低軌道衛星なら高度が低いため、遅れはわずかになるはずです。研究チームは6月30日、低軌道衛星を用いた世界初の移動型遠隔手術システムの実験を行いました。
実験では、病院に手術支援ロボットの端末を設置し医師がそれを操作。そして離れた場所の車の中に実際に手術を行う手術ロボットを設置しました。手術対象は人間の臓器の感触に近いトレーニング用モデルです。

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実際の医師が操作して実験!
病院と車の間はアメリカ・スペースX社の「スターリンク」で結びました。この衛星は高度約550キロメートルという低い高度を、数千機がコンステレーション(群れ)を作って飛んでおり、地球上のどこからでも安定した高速通信が行えます。今回の実験では、高画質で滑らかな映像を見ながら手術が行え、実験に参加した6人の外科医によって、実際の手術と同じように操作できることが確認されました。


低軌道衛星を利用することで、緊急時の遠隔手術がぐんと実用化に近づいたといえます。
文
