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文/土屋 健
「史上最大」と言われたクジラ
2023年秋、ピサ大学(イタリア)のジョバンニ・ビアヌッチ博士たちは、ペルーに分布する約3980万年前〜約3784万年前(新生代古第三紀始新世)の地層から、新種のクジラ類を報告し、「ペルケタス・コロッスス(Perucetus colossus)」と名付けました。ペルケタスの化石は、脊椎の一部や肋骨などの部分的なものでしたが、博士たちはその部分化石を使って体重を推測し、小さい場合で85トン、大きい場合で340トンになると計算しました。
生命の歴史上、「最も大きい」と言われている動物は現生のシロナガスクジラ(Balaenoptera musculus)です。その体重は、最大で177tと言われています。ビアヌッチ博士たちによる“大きな場合の計算値”が正しければ、ペルケタスはシロナガスクジラを大幅に上回る巨体となります。そのため、発見が発表された当時、大きな注目を集めました。
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大きいことは大きいけれど……
このたび、カリフォルニア大学ディヴィス校(アメリカ)の藻谷亮介博士と、スミソニアン協会(アメリカ)ニコラス・D・ピエンソン博士は、ビアヌッチ博士たちがペルケタスの体重計算に用いたさまざまな値や計算式を再検証しました。部分化石から推定される骨格や骨の密度などを詳しく調べたところ、推測される体重は、小さい場合で41.3t、大きい場合で114tになるとのことです。ビアヌッチ博士たちの計算を大幅に下回ることになります。最大の値でも、シロナガスクジラにはおよびません。ちなみに、藻谷博士とピエンソン博士の研究では、41.3tのときのペルケタスの全長を15.0m、114tのときの全長を20mと推測しています。参考までに、同じ方法でシロナガスクジラの体重を計算すると270tになるそうです。
ペルケタスは、古生物において、とくに部分化石から全長や体重を推測することは、かなり難しいということを示す例になるでしょう。私たちも、とくに「大きい値」が示された場合は、慎重な姿勢で向かい合う必要がありそうです。

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